「良少将立ちの緒にすべき革をもとめければ、監の命婦なむ「わがもとにあり」と言ひて、久しく出ださざりければ、
あだ人の頼めわたりし染川の色の深さを見でや止みなむ
となむ言へりければ、監の命婦、めでくつがえりて、求めてやりけり」
(資料)『伊勢物語』61段「染河」
「むかし、男、筑紫までいきたりけるに、「これは、色好むといふすき者」と、すだれのうちなる人のいひけるを、聞きて、
染川を渡らむ人のいかでかは色になるてふことのなからむ
女、返し、
名にしおはばあだにぞあるべきたはれ島浪のぬれぎぬ着るといふなり
(資料)『能宣集』180番歌
「染川のなに流るればわかるらん衣の色をまいてこそこめ」
(資料)『重之集』7番歌
「染川の錦寄せくる白波は聞くにもたがふ色にざりける」
(資料)『馬内侍集』103番歌
「人語らふと聞き給ひて、中関白(藤原道隆)、
あやしきは濡れぬ人なき染川のかからぬ袖も朽ち果てぬべし」
(資料)『大弐高遠集』186番歌
「染川
恋しさは色に出でぬと染川の心をくみて人は知らなむ」
(資料)『嘉言集』140番歌
「筑紫より上りたる女に
染川を渡りてきたる君ならばいかならむとも思ほゆるかな」
(資料)『四季恋三首歌合』27番歌
「恋ひわたる程の深さに染川の色浅からじと思ほゆるかな」
(資料)『兼澄集』22番歌
「筑紫より来たりし人に車の簾革こふに、今と言へば
ありとのみ人のいふめる染川は心づくしにこひやわたらん」
(資料)『経信集』90番歌
「螢
いさり火の波間わくるに見ゆれども染川わたる螢なりけり」
(資料)『散木奇歌集』1448番歌 沙弥能貧上
「おもひわび落つる涙は紅に染川とこそいふべかりけれ」
(資料)『堀河百首』1213番歌 遇不逢恋
「人心かねて知りせばなかなかに逢染川も渡らざらまし」
(資料)『歌枕名寄』8957番歌
「良玉 光任
我妹子に逢染川の水を浅み心づくしにさて止みなん」
(資料)『親宗集』121番歌
「恋部 頼政卿のもとへ革をこひにやるとて、伊豆国しる時なり
筑紫なる逢染川を東路の道知る人に尋ねつるかな」
(資料)『重家集』351番歌
「疑行末恋
ながらへて住まむ住まじをあやぶむは逢染川は渡りなむとや」
(資料)『拾玉集』273番歌
「百首 堀河院題 恋十首 初逢恋
ひまもなく落つる涙の積もりては逢染川となりにけるかな」
(資料)『拾玉集』4515番歌
「百首 堀河院題 恋十首 初逢恋
こよひよりまた濡らすべき袂かな逢染川の末の白波」
(資料)『弘長百首』477番歌
「初逢恋
行く末の淵瀬ぞ見えん嘆きわび逢染川の水の白波」
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