2026年7月20日月曜日

論文題目:「律令制下における国府アーカイブズの研究」(第1稿)ーーだから国守大伴家持は忙しい

 ①問題の所在:「万葉の歌人大伴家持は、天平18年(746)8月に越中国司として赴任し、約5年間で家持自身の歌223首作った。そこで彼は文学者としての多忙であったと想定されてきたが、日々膨大な行政実務に追われる地方長官でもあったことは忘れがちであった。では、国司大伴家持はなぜそれほど多忙であったのか。その理由を国府で作成・管理された文書群の構造から解明することが、本稿の目的である。」

 分析視点:律令国家とは、国府を中核として、人・物資・情報・文書が相互に循環する広域行政ネットワークであったと設定することにある。

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<以下は、論文のFrameworkである。本論文の成稿化した文章は別途発表する。


論文題目:「律令制下における国府アーカイブズの研究」(第1稿)

律令制下の国府では、多種多様な紙媒体文書が作成・保管・運用された。これらは行政機能からみると、租税・戸籍・貢進・考課・進上・行政命令など約14系統の文書群(Record Groups)に大別することができ、その下位には税帳・計帳・考文など約20~30の文書群が存在した。さらに、『公式令』・『延喜式』に規定される個別の帳簿名や文書様式まで含めると、その種類は約80種類に達する。また、各文書については、本帳・案(office copy)・写・勘(監査用)など複数部が作成・保管されたため、実際に国府で管理・運用された紙媒体文書の冊数は、その種類数を大きく上回っていた。

本稿でいう「国府」とは、特定の一国を対象とするものではなく、律令国家を構成した約六十余国の国府に共通して存在した行政組織を指す。各国には地域差や運用上の相違が認められるものの、律令法制に基づく共通の文書体系が整備され、それぞれの国府において同様の文書群(Record Groups)が形成されていたと考えられる。

本稿では、まず『公式令』『延喜式』および現存する古文書・木簡などから国府文書の体系を復元し、その上で出雲国をはじめとするいくつかの国を事例として取り上げ、文書作成・管理の地域的差異と共通性を検討する。

<本論>

いまさらの概説的な整理となるが、律令制において各国では膨大な書類が作成された。

この点では、鐘江宏之『国府機構の形成と文書行政』は優れた研究成果である。

国府機構の形成と文書行政 - 国立国会図書館デジタルコレクション

本稿では、鐘江氏らの先行研究を踏まえて、本稿の論者の観点を国府アーカイブズ(Provincial Archives)と定めて、改めて整理しなおした研究である。

律令制下の国府では、多数の紙媒体文書が作成・保管・中央へ進上された。行政機能からみると、おおむね13系統に整理することができる。一方、『公式令』・『延喜式』などの法令・格式に現れる個別の帳簿名・文書様式まで数えると、80種類以上に及ぶ。次は、そのリストである。

<1>税帳系(租税・財政管理)

→国府財政の全ワークフローを網羅する体系

郡衙 → 国府 → 主計寮・民部省へと連動する、律令国家の財政オペレーションの中核

→租税・正税・出挙・官田収入など、国府財政を管理する帳簿群。

  • 正税帳:国府財政の“決算書”。 租・調・庸・出挙利稲など、郡から上がった全税目を統合した最終帳簿。 主政・主帳が中心となり、国司が検印。
  • 郡稲帳:郡衙で作成される稲の収納台帳。 郡司が郡内の田租(稲)を把握し、国府へ送付。 国府はこれを正税帳の基礎データとして使用。
  • 倉付帳:正倉への収納記録。 稲・調物がいつ、誰によって、どれだけ納められたかを記録。 実務担当は鎰取。
  • 出挙帳:出挙(貸付稲)の台帳。 貸付量・返納量・利稲を記録。 郡衙→国府→主計寮へと連動する重要帳簿
  • 損益帳:税物の欠損・余剰を記録。 虫害・風水害・盗難などによる損失を記載し、国司が中央へ報告。 郡司の責任問題にも直結。
  • 収納帳:郡から国府へ納められた税物の受領記録。
  • 支出帳:国府が支出した物資の記録。 国司巡行・駅家運営・官人給与などの支出管理
  • 納帳:納税物の個別記録。 郡司が戸口・田地に基づいて徴収し、郡衙作成
  • 受領帳:国司が郡司から税物を受領した記録。 国司交替時の「受領交替文書」の基礎データ
  • 官田地子帳:官田(公田)の収穫・地子(地代)を記録。 国府直営田の財政収入を管理
  • 運脚帳:税物の運搬記録。 郡→国府→都(正倉院)への輸送量・運脚人・日程記録。 
  • 輸送帳:運脚帳の上位帳簿。 国府から中央へ送る際の輸送記録。作成は 朝集使。
  • 貸付帳:出挙以外の貸付(布・調物など)の記録
  • 利息帳:出挙利稲・貸付利物の利息記録
  • 穀帳:穀物の在庫台帳。 正倉の積載量・古稲の処理・新稲との入れ替えを管理
  • 積帳:国府や郡衙において、租税・調庸・正税・貢納物などを「積み上げ(集計)」して作成した集計原簿。子国府内部管理用。


<2> 計帳系(戸籍・人口・土地管理)

⇒戸口・課丁・班田・課税基礎資料を管理する帳簿群である。

  • 戸籍:戸ごとの構成員(氏名・年齢・続柄・身分)を登録した基本台帳。人口把握・班田・課税・兵役の基礎
  • 計帳:課税・兵役対象者(課丁・正丁など)を中心に集計した帳簿。調・庸・兵役の基礎資料
  • 手実:戸主が自己申告した家族・財産などの。戸籍・計帳作成の基礎資料
  • 負名帳:負名(耕作者・納税責任者)の氏名と耕地を記録。租税徴収・土地管理台帳
  • 郷戸課丁帳:郷ごとの戸数・課丁数を集計した帳簿。調庸・兵役人数の把握
  • 田租帳:田地ごとの租税(租)の賦課・収納状況を記録。租税徴収
  • 浮浪帳:本籍地を離れた浮浪人を記録。戸籍管理・課税漏れ防止
  • 逃亡帳:逃亡した戸口・課丁を記録。課税・兵役逃れ防止
  • 班田帳:班田収授の対象者・支給面積を記録。班田収授の基礎台帳
  • 班給帳:実際に班給した口分田を記録。班田実態記録
  • 班収帳:死亡・転籍等により返還された口分田を記録。班田帳簿
  • 校帳:帳簿相互の照合・訂正結果を記録。帳簿のリニューアル記録簿。帳簿確認


<3>貢調系(調・庸・雑徭・貢進)

⇒中央へ納める物資・労役・運送を管理する帳簿群である。

  • 調帳:調(絹・布・糸・海産物・特産物など)の賦課・収納・納入状況を記録した帳簿。調の徴収・中央への送付
  • 庸帳:庸(労役または布代納)の賦課・収納状況を記録した帳簿。庸の徴収・管理・記録簿
  • 中男作物帳:中男(17~20歳前後)の作物納入状況を記録。中男作物の徴収・調進
  • 雑徭帳:雑徭(地方の労役)の賦課・出役状況を記録。労務管理
  • 雇役帳:雇役夫の雇用・勤務・給与などを記録した帳簿。官営工事・労務管理
  • 貢物帳:貢納すべき物資の品目・数量を記録。貢納物の管理
  • 調進帳:中央へ発送する物資の品目・数量・発送日などを記録。調・庸・雑物の送付管理
  • 貢進帳:朝廷・太政官・諸司などへ進上した貢納物を記録。貢進実績の管理
  • 運脚帳:運脚(運送人夫)・駄馬・船舶などの動員を記録。運送・輸送管理

(※運脚帳は租税輸送にも用いられるため、税帳系との関連も深い。

<4> 考課系(官人・人事管理)

⇒「国司以下の官人の任免・勤務・勤務評定・交代・事務引継ぎを管理する人事行政文書群」

  • 考文(考帳):官人の勤務実績・勤務成績・功過を記録した文書。昇進・叙位・考課
  • 解由帳:前任・後任国司間で引き継ぐ官物・文書・財産を一覧化した帳簿。官物管理・引継ぎ
  • 解由状:引継ぎが完了したことを証明する文書。解由審査・離任証明
  • 任替帳:官人の任免・交代・異動を記録した帳簿。人事管理
  • 勤仕帳:官人の出勤・勤務状況・勤務日数を記録。勤務管理
  • 番上帳:番上官人(一定期間中央へ出仕する官人)の勤務・交替を記録。番上勤務管理
  • 番替帳:番上・衛士・軍団兵などの交替日程・交替者を記録。勤務交替管理


<5>中央との文書往復系

⇒「国司が太政官・民部省その他の中央諸司へ公文を送達し、その受領・返却・照合を管理する文書群」

  • 公文目録:送付する公文書・帳簿の名称・通数を一覧化した目録。送付文書の確認・紛失防止
  • 遊牒;公文書に添付する送達状・送付状。文書送達・送付先への通知
  • 返抄:中央官司が文書を受領したことを証明する受領書・控え。到着確認・文書管理

<6> 行政命令管理文書系(国府内部行政)

⇒国司が郡司・郷司・在地官人・寺社・百姓などに対して、行政命令・裁定・通知を発する文書群である。

  • 国符:国司が発する正式な行政命令・指令文書。行政命令・徴税・労役・司法・寺社統制
  • 国司庁宣:国司庁の合議・裁定・許可を伝える文書。許認可・裁決・行政執行

<7> 軍事管理文書群

⇒軍団・兵士・兵器・軍馬・軍糧など、国府・軍団の軍事行政を管理する文書群である

  • 軍団帳:軍団の編成・兵員・勤務状況を記録
  • 兵籍帳:兵士の氏名・年齢・所属・勤務を記録
  • 兵器帳:武器・甲冑・弓矢などの保管・数量を記録
  • 馬帳:官馬・軍馬の頭数・飼養・貸与を記録
  • 軍粮帳:軍糧・兵站物資の備蓄・支給を記録
  • 駅馬帳:駅馬関係帳簿

軍事管理文書群は、軍団・兵士・兵器・軍馬・軍糧の管理にとどまらず、蝦夷征討・城柵防衛・駅伝輸送を支える兵站(ロジスティクス)を統括する文書体系として機能した。

<8>祭祀行政文書群

⇒官社・神戸・神田・祭料・神宝など、国府が管轄した祭祀行政を管理する文書群である。
  • 神戸帳:神戸(神社に属する戸)の戸数・負担・役務を記録
  • 神税帳:神税・神封など神社関係の租税・収入を記録
  • 祭料帳:祭祀に支出した祭料・供物・経費を記録
  • 神宝帳:神社の神宝・祭器を記録
  • 神田帳:神田の面積・耕作者・収穫を記録
  • 修繕管理帳:神社の管理・修繕などの記録。
  • 神封帳(または神封関係文書)


<9>訴訟・司法文書群

⇒裁判・刑罰・獄政・犯罪人管理など、国府の司法行政を管理する文書群である

  • 訴状:当事者が国司へ提出する訴願・告訴文書
  • 勘状:事件調査・審理結果・照会事項を記した文書
  • 獄帳:獄舎・囚人・刑罰執行状況を記録
  • 断獄帳:判決・量刑・刑罰執行を記録した帳簿
  • 囚帳:囚人の氏名・罪名・収監期間などの記録
  • 獄舎ロジスティクス文書(仮称):囚人の食事・衣服・寝具などが 一体化されたロジスティクス(物資供給)

<11>公文・行政記録文書群

⇒国府の日常行政において、公文の作成・伝達・保存および行政活動の記録に用いられる文書群である。行政を動かすための共通基盤となる文書であり、帳簿ではなく、公文書の様式(フォーム)

(A)文書様式(『公式令』)

  • 解:下級機関から上級機関への報告・申請
  • 移:官司相互の通知・連絡
  • 符:機関から下級機関への命令
  • 牒:官司間の照会・回答
  • 関:他官司への照会・依頼
  • 申文:官人の上申・申請
  • 上表:天皇への奏上文
  • 表:公文書の原案・起案
  • 案文:清書前の文案
  • 勘文:調査・審査・照合結果の報告

※これらは帳簿に属するカテゴリーではなく、公文書フォームである。

(B)公文行政記録管理文書群

行政事務の経過や施設・物資を継続的に管理する記録簿であり、行政全体を支える共通インフラ。

  • 計会帳:財政・会計の収支を照合・記録
  • 日録:日々の行政事務を記録
  • 公文日記:発受した公文書を日付順に記録
  • 国印簿:国印の使用状況を記録
  • 駅家帳:駅家・駅馬・駅子・駅田を管理
  • 伝馬帳:伝馬の配置・使用を管理
  • 船帳:官船・輸送船の管理
  • 工匠帳:工匠・技術者の勤怠・動員管理
  • 医帳:医師・医療業務の管理
  • 薬帳:薬品・薬草の出納管理

(約10種類)

<12>教育・学芸行政文書群

⇒国学・博士・学生・医師など地方教育行政を管理する文書群

  • 学生帳:学生氏名・出身地・年齢。学籍簿
  • 国学帳:国学運営記録。教科書などの書写・管理
  • 博士任帳:国博士の任免記録
  • 試験帳:学業試験・資格試験などの考課
  • 医学生帳:医学生管理
  • 釈奠帳:釈奠などの儒教関係記録

<13> 寺院行政文書群(国分寺・国分尼寺関係)

⇒国分寺・国分尼寺および官寺に関する造営・財政・人事・法会・寺領管理を行う文書群である。

  • 寺領帳:寺領田・寺田・寺封を記録
  • 寺田帳

    寺田の面積・耕作者・収穫を記録


  • 寺税帳

    寺院収入・免税関係を記録

    財政管理


  • 僧尼帳

    僧侶・尼僧の人数・所属を記録

    僧尼統制


  • 法会

    法会・読経・供養の実施記録

    宗教行事管理


  • 写経帳

    写経事業・経巻の管理

    国家仏教事業

  • 造寺帳

    国分寺造営・修理の人夫・資材を記録

    造営管理

  • 寺宝帳

    仏像・経巻・法具などの寺宝を記録

    寺宝管

<14>庸役・雑徭管理文書群

⇒そもそも庸とは単なる布の代納ではなく、本来は労働力・日数・勤務場所・食糧支給・代納を管理する制度である。想定される庸役として、官道建設・橋梁建設・国衙建築・城柵建設・国分寺造営・河川工事・堤防工事・雑役などがある。つまり人夫徴発・勤務管理・造営管理・工匠管理・工事物資管理セクションにおいて、それぞれ人的リソース管理文書を必要とした。

1)徴発関係

庸丁帳:庸役に出る成人男子

②差発帳:誰を派遣するか

③番役帳:勤怠

(2)勤務管理

勤仕帳:出勤および欠勤
役帳:勤務日数帳
番替帳:勤務シフト帳

(3)工事管理
造営帳:国衙・国分寺・国分寺・軍団・城柵
工匠帳:大工・瓦匠・鍛冶工などの名簿
作業帳:毎日の作業量

(4)物資管理:木材・鉄・銅・瓦・縄・釘など

⑩材木帳
⑪原材料帳

(5)庸役終了
勘文
雇役帳
雑徭帳:庸行政の中核帳簿


<15>公文書作成・伝達・審査過程における派生文書群:一つの帳簿が行政過程の中でどのような文書群を派生させたか

⇒律令国家では、「一つの帳簿=一冊」ではなく、作成・審査・提出・保管という行政過程ごとに複数の文書が存在した。現存する『正倉院文書』や木簡、さらに『令義解』『令集解』などからも、それを推測してみたい。

例えば、正税帳・出挙帳であれば、最低限でも次の種類が存在したに違いない。

文書名用途
正税帳本太政官・民部省提出用、正本
正税帳案国府で作成した草案・控え 
正税帳鏡提出前後の副本、「鏡」
正税帳勘勘会(監査・照合)用
正税帳改修正後の訂正版
正税帳勘返中央から返送された訂正結果を反映したもの
出挙帳本提出用
出挙帳鏡国府控え
出挙帳写副本
出挙帳勘監査用

実際には、さらに多くの関連文書が存在したはずである。

(1) 草案(草・初案):正式な帳簿を書く前の下書き。

  • 正税帳草
  • 出挙帳草
  • 調帳草

正倉院文書には計算途中の紙や書き損じも多く残存する。別途、これを紹介する。

(2)勘文(勘申・勘状):帳簿を照合した結果を記録した文書

  • 勘文
  • 勘申
  • 勘状

中央・国府双方で作成された。

(3)解:提出書類/提出済み書類/添付書類

○○国解

として

  • 正税帳
  • 出挙帳
  • 計帳

などの添付文書。

つまり

解+帳

でワンセット。

(4)牒・移:他部署への通知

:上位→下位、または同格部署間の通知・命令

:部署間の連絡・照会・通知(横方向の連絡)

:上申前の下書き・草案だが、実務では通知文としても使われる場合あり

(A)牒

命令・通知・指示を伝達する文書

中央→地方、国司→郡司、郡司→里長などの往復文書

同格部署間でも使用(例:民部省→造東大寺司)

④ 書式の特徴

  • 冒頭に「○○牒」

  • 「事」字で区切る

  • 朱印を押印(国司牒・郡司牒など)

⑤例

『東大寺文書』所収「相模国司牒』

『正倉院文書』の諸国司牒→調庸の不足・地子の修正などを郡司へ通知

⑤主な使用目的

  • 行政命令

  • 調庸・地子の割当通知

  • 寺領・官田の管理指示

  • 人員動員(雑徭・駅馬)

    など。


    (B)移(うつし)— 部署間の連絡・照会・通知(横方向の文書)

    部署間の連絡・照会・通知を行う文書

    ②上下関係ではなく、横方向(同格部署間)で使われる

    ③中央官司間の連絡で頻出(太政官→諸司、諸司→諸司)

    ④ 書式

    • 「○○移」

    • 牒よりも簡略

    • 朱印は必ずしも必要ではない

    ⑤代表例

    • 『延喜式』諸司式に見える「○○司移」

      • 例えば「大蔵省移」「民部省移」など

      • 他司へ物品・人員・情報の通知

    • 『正倉院文書』の諸司移

      • 造東大寺司→大蔵省への物品受領通知

      • 兵部省→民部省への人員照会

    ⑥主な目的

    • 他部署との情報共有

    • 物品受領・引渡しの通知

    • 人員の異動連絡

    • 調査依頼・回答

    (c) 返抄・返牒

    中央から

    • 不備の指摘
    • 修正要求

    という通知が来たときの返答文書

    (D)勘会関係文書

    監査では

    • 勘録
    • 勘会帳
    • 勘過状

    のような照合作業文書類を作成。

    (E)算用関係

    集計途中の内部資料

    • 算紙
    • 計算紙
    • 集計表

    正倉院文書に残る書き損じ、計算し直しt文書。

    (F)木簡:

    ⇒木簡は紙文書を補完する行政媒体として、運送・収納・物資管理・命令伝達などに利用された。

    • 調物木簡ーー「讃岐国三野郡/海藻六斤」(藤原京跡出土木簡、7世紀末〜8世紀初)
    • 正税木簡ーー「尾張国正税/米壱斛」(平城宮跡出土例)
    • 出挙木簡(出挙稲の貸付・返納管理札)ー「返出挙米/壱斛二斗」(大宰府出土)

    なども行政文書の機能を担当する。


    <16>一つの正税帳が完成に至る手続き


    草案

     ↓
    郡からの報告
     ↓
    集計紙
     ↓
    正税帳案
     ↓
    勘文
     ↓
    修正版
     ↓
    正税帳本
     ↓
    写
     ↓
    中央提出
     ↓
    中央勘
     ↓
    返却・訂正
     ↓
    保存本

    「草案の作成、内部審査、正式文書の作成、控えの保存、上級機関への提出という基本的な行政文書作成の流れは、現代の行政実務にも通じる普遍的な構造を有している。」

    「律令国家の文書作成過程を、草案・木簡・帳簿・関連文書まで含めて今日に伝える例は世界的にも稀であり、とりわけ正倉院文書・出土木簡・古代法令を併せて検討できる日本の史料環境は極めて貴重である。」


    • 草(下書き)
    • 解(添状)
    • 勘文・勘申(監査結果)
    • 牒・移(通知・照会)
    • 返抄・返牒(中央との往復文書)
    • 算紙・集計紙(内部計算資料)
    • 木簡(荷札・納入管理)


    <17>まとめ

    以上を総合すると、国府で作成された紙媒体文書は、行政機能からみれば約14系統の文書群に整理できる。一方、『公式令』『延喜式』に規定される個別の帳簿名・文書様式まで含めると約80種類前後に達し、さらに各文書について本帳・案・写・勘など複数部が作成されたため、国府には常時膨大な量の紙文書が作成・保管・運用されていたと考えられる。

    2026年7月17日金曜日

    「古代陸奥国5郡の広域行政ネットワーク」論の試み

     議論の前提:陸奥国「磐城・行方・牡鹿・黒川・名取」の5郡は、相互に孤立した郡ではなく、城柵(多賀城)・国府文書体系・蝦夷支配・軍団制・移民政策・飢饉・疫病・地震等の非常時対応などを軸に郡司同士が連動する「国府媒介型広域行政ネットワーク」を形成していた。つまり、 国府を介した 在地豪族(郡司)同士の連携が不可欠であったからである。

    論文要旨:従来、律令国家における広域支配は、官道・駅伝・城柵・軍団など、人員・物資の移動を中心として理解されてきた。しかし、これらの制度を実際に機能させた基盤は、各郡から国府へ継続的に提出された正税帳・計帳・郡稲帳・郡司解などの行政文書であった。国府はこれらを集約・照合・保管し、国全体の財政・人口・軍事・物流・災害情報を一元的に把握していたのである。すなわち、律令国家の広域支配は、道路網や駅伝網だけでなく、文書の作成・提出・保管・再配分によって形成された情報ネットワーク・データバンクの上に成り立っていたと考えられる。


    以下は、その主なFramework。長文の論文は読まれることはないと予想するので、それは別掲する。

    <1> 5郡の地理的配置と機能(ネットワークの前提)

    分析視点:陸奥国の太平洋側に連なる5郡は、多賀城(国府)を中心に、国府を介した放射状・機能分担型広域行政ネットワークを結んでいた

    <1> 多賀城を中核とする五郡の機能分担

    多賀城(国府・鎮守府)は、陸奥国の政治・軍事・財政・情報の中枢として機能した。その広域支配を支えたのが、磐城・行方・牡鹿・黒川・名取の五郡であり、それぞれが異なる行政機能を担いながら、国府を中心とする一体的な広域行政ネットワークを形成していたと考えられる。

    (1)磐城郡 ― 南部軍事・境界情報の拠点

    国府への主な機能

    • 陸奥国南端における軍事防衛
    • 東海道北端としての陸上交通管理
    • 関東系移民の受け入れ・統括
    • 軍団兵・軍事物資の供給
    • 南部境界情報の国府への報告

    軍事・移民・境界情報を担う前線郡

    (2)行方郡 ― 海上交通・物流の拠点

    国府への主な機能

    • 常陸・磐城・多賀城を結ぶ海浜交通
    • 海上交通路の維持・監視
    • 製塩・海産物の供給
    • 調物の海上輸送

    海上物流・海浜交通を担う郡

    (3)牡鹿郡 ― 北方海域との接点

    国府への主な機能

    • 三陸沿岸航路の管理
    • 海獣・魚類など海産資源の供給
    • 蝦夷海上勢力との接触・情報収集
    • 北方海域情報の集約

    北方海域との情報・物流拠点

    (4)黒川郡 ― 内陸交通・兵站の拠点

    国府への主な機能

    • 玉造・加美・大崎方面への交通結節点
    • 内陸物資の集積・中継
    • 軍団兵の供給
    • 北方城柵への兵站基地
    • 在地勢力との調整

    内陸物流・兵站・交通の中核郡

    (5)名取郡 ― 国府直轄行政の基盤

    国府への主な機能

    • 多賀城の日常行政支援
    • 徭役・調庸・物資供給
    • 国府官人への人的・物的支援
    • 国府直轄地としての行政運営

    国府行政を支えるバックヤード


    以上のような機能分担は、各郡が独立して遂行したものではない。各郡で生み出された軍事・財政・人口・物流・海上交通などの情報は、郡司解・正税帳・計帳・郡稲帳などの行政文書として国府へ集約され、国府はそれらを照合・管理することによって国全体の行政を統括していた。したがって、五郡を結び付けていた実体は、道路や駅伝だけではなく、文書の作成・提出・保管・再配分によって形成された広域行政情報ネットワークであったと考えられる。


     <2> 郡司ネットワークの構造的研究

    軍事ネットワーク(蝦夷支配・軍団制)

    • 磐城・黒川は 軍団兵士制の主力供給郡

    • 名取は 鎮守府(多賀城)への兵士・物資供給

    • 行方・牡鹿は 海上監視・蝦夷海上勢力の情報収集

    • 天平5柵などをはじめとする蝦夷対策用城柵などの武器調達・兵士の軍事訓練

    郡司は多賀城を介して軍事情報を相互に共有し、蝦夷境界の監視を分担した。

    行政ネットワーク(城柵・国府文書体系)

    • 多賀城官衙は 郡司文書の集約拠点

    • 名取郡司は国府と最も密接に連動

    • 黒川・行方・牡鹿は 城柵官衙(名生館・赤井) と連動

    • 磐城郡司は南方の蝦夷境界情報を国府へ送達

    郡司は国府文書体系を媒介として、各郡の行政情報は相互に結び付けられ、郡境を越えた行政情報ネットワークを形成した。

    移民ネットワーク(部民制・屯倉制の残存)

    • 7世紀後半〜8世紀前半、関東・畿内からの移民集団が各郡に配置され、郡司は移民集団の管理を通じて互いに連動した。同時に、古代のエミシ移配政策とその展開

    例:

    • 磐城=東国系移民

    • 名取=畿内系移民(存擬)

    • 黒川=古墳時代以来の在地勢力

    • 行方・牡鹿=漁労系集団

    郡司は移民集団の管理を担い、加えて移民の保護や支援、夷俘と移民との間に予想されるトラブル防止など、国府を中心とする人口管理体制が形成された可能性がある。

    ④ 正税倉を中心とした物資供給ネットワーク(調庸・蝦夷饗給)

    • 名取:国府への調庸物の中心

    • 行方・牡鹿:海産物(調物)

    • 黒川:内陸物資(木材・雑物)

    • 磐城:軍事物資(干魚・布・馬)

    国府を介して、正倉を中心に集積・再配分各郡の物資が集積・再配分され国府の財政を支える「広域物流ネットワーク」を形成した。

     <3> 郡司ネットワークの「通信・情報伝達」モデル

     ① 斥候(蝦夷監視)

    郡司は蝦夷の動向を互いに共有し、国司の「斥候」権限を補助した。

     ② 継文(文書の連絡)

    郡司は木簡・継文を用いて、郡境を越えた情報伝達を行った(正倉院文書)。

    ③ 国府への報告

    国司・国衙官人が中心となり、他郡の情報を国府へ集約して送達した。

    駅鈴・駅馬

     <4>まとめに代えて: 多賀城を中核とする広域支配システム

    多賀城は 郡司ネットワークのハブであり、郡司は以下の機能を通じて国府と連携した。

    • 軍事(鎮守府)

    • 財政(調庸・出挙)

    • 行政(郡司解・計帳・正税帳・郡稲帳などの文書行政、飢饉・疫病・地震等の非常時対応)

    • 交通(駅伝制)

    • 蝦夷支配(饗給・斥候・征討)

    • 情報ネットワーク:木簡・郡司解・駅伝・急使

    郡司ネットワークは「多賀城を中心とした広域支配圏」であった。

    仮想モデル:伊勢国安濃郡官田地子帳の復元の試み

     重要:本研究におけるデータはすべて仮定であり、実数ではない。机上における計算で算出した数字にすぎない。本研究の目指す方向への一里塚として、あえて復元することとした。

     第1稿である。今後、第2稿以降で、適宜、修正・増補・補綴を加えるつもりである。

    安濃郡官田地子帳(天平勝宝七年・仮想復元)

    伊勢国安濃郡官田地子帳

    天平勝宝七年(仮) 作成:安濃郡主帳・書生 検印:大領・少領

    一、官田一覧(条里地割)

    田名面積(段・畝・歩)等級年収(稲)地子率地子額(稲)備考
    八条四里十三坪上田一号1段2畝上田3.2石2割0.64石水利良好
    八条四里十四坪上田二号1段0畝上田2.8石2割0.56石
    八条五里九坪中田一号2段1畝中田4.0石1.5割0.60石旱損一部
    八条五里十坪下田一号1段3畝下田2.0石1割0.20石
    九条三里二十坪中田二号3段0畝中田5.5石1.5割0.825石溝渠修理済
    九条四里二十一坪上田三号0段3畝上田1.1石2割0.22石

    二、郡内官田地子合計

    • 上田地子:1.42石

    • 中田地子:1.425石

    • 下田地子:0.20石

    • 合計:3.045石

    三、納入状況

    • 納入先:安濃郡正倉

    • 納入日:天平勝宝七年八月

    • 納入者:刀禰○○・作人□□

    • 検納:鎰取(かぎとり)△△

    四、付記(損益・特記事項)

    • 八条五里九坪中田一号:旱損により収量減(郡司検断済)

    • 九条三里二十坪:溝渠修理により来年増収見込

    • 地子未済なし


    「条里地割 × 官田地子帳 × 郡衙財政」モデルを活用した出雲国大原郡官田地子帳の仮想復元案

     重要:本データはすべて仮定データを設定しているので、実数はゼロである。あえてその仮想復元案を提示し、今後の検討材料の一つとしたい。

    出雲国大原郡官田地子帳(天平宝字三年・仮想復元)の試み

    文書名:出雲国大原郡官田地子帳

    年次:天平宝字三年(仮) 作成:大原郡主帳・郡書生 検印:大領勝部OO・少領額田部OO

    <1>出雲国大原郡の前提

    1, 概観:神原郷、屋代郷、屋裏郷、佐世郷、阿用郷、海潮郷、来次郷、斐伊郷の八郷で構成

    2,『出雲国風土記』大原郡条

    大原郡

    合郷 捌 里廿四。

    神原郷 今依前用。

    屋代郷 本字 矢代。

    屋裏郷 本字 矢内。

    佐世郷 今依前用。

    阿用郷 本字 阿欲。

    海潮郷 本字 得盬。

    來次郷 今依前用。

    斐伊郷 本字 樋。

    以上 捌 郷別里参

    所以號大原者、郡家正西一十里一百十六歩、田一十町許平原。故號曰大原。往古之時、此處有郡家。今猶追旧號大原。〔今有郡家處、號云斐伊村。〕

    神原郷 郡家正北九里。古老傳云、所造天下大神之御財積置給處。則可謂神財郷、而今人猶誤云神原郷耳。

    屋代郷 郡家正北一十里一百十六歩。所造天下大神之、垜立射處。故云矢代。〔神亀三年、改字屋代。〕即有正倉。

    屋裏郷 郡家東北一十里一百十六歩。古老傳云、所造天下大神、令殖笶給處。故云矢内。〔神亀三年、改字屋裏。〕

    佐世郷 郡家正東九里二百歩。古老傳云、須佐能袁命、佐世乃木葉頭刺而、踊躍為時、所刺佐世木葉墜地。故云佐世。

    阿用郷 郡家東南一三里八十歩。古老傳云、昔或人、此處山田佃而守之。爾時、目一鬼来而食佃人之男。爾時、男之父母、竹原中隠而居之。時、竹葉動之。爾時、所食男云動々。故云阿欲。〔神亀三年、改字阿用。〕

    海潮郷 郡家正東一十六里卅三歩。古老傳云、宇能治比古命、恨御祖須美禰命而、北方出雲海潮押上、漂御祖之神、此海潮至。故云得盬。〔神亀三年、改字海潮。〕即東北須我小川之川中温泉。〔不用號。〕同川上、毛間村川中温泉出。〔不用號。〕

    来次郷 郡家正南八里。所造天下大神命詔、八十神者、不置青垣山裏。詔而、追撥時、此處追次坐。故云来次。

    斐伊郷 属郡家。樋速日命坐此處。故云樋。〔神亀三年、改字斐伊」

    2,条里地割の予想

    • 大原郡は 斐伊川中流域の湿地開発田

    • 条里は「水利差」が大きく、上田・中田・下田の等級差が強い

    3,官田の占める予想割合

    • 出雲国大原郡は 官田(公田)比率が高い

    • 勝部郡司の支配地域であるが、官田が条里の中に点在する

    4, 収量係数

    • 出雲国は湿地開発田が多く、上田=高収量、中田=標準、下田=低収量 の差が明確

    • 島根県東部農林水産振興センターによる農林業統計(島根県東部資料)から推定すると、 大原郡(現・雲南市・奥出雲町・飯南町周辺)は「山間地が圧倒的多数(70〜90%)、平地は10〜30%程度」

    <2>官田一覧(完全に仮定データ)

    田名面積(段・畝・歩)等級年収(稲)地子率地子額(稲)備考
    三条二里六坪上田一号2段0畝上田6.0石2割1.20石斐伊川水利良好
    三条二里七坪上田二号1段3畝上田4.5石2割0.90石
    四条一里十坪中田一号3段1畝中田5.0石1.5割0.75石湿地改良田
    四条一里十一坪中田二号1段2畝中田2.2石1.5割0.33石
    五条三里四坪下田一号2段0畝下田2.0石1割0.20石湿地・収量低
    五条三里五坪下田二号1段1畝下田1.2石1割0.12石

    <3>郡内官田地子合計

    • 上田地子:2.10石

    • 中田地子:1.08石

    • 下田地子:0.32石

    • 合計:3.50石


    <4>納入状況

    • 納入先:大原郡正倉

    • 納入日:天平宝字三年八月

    • 納入者:刀禰○○・作人□□

    • 検納:鎰取(かぎとり)△△

    <5>損益・特記事項

    • 四条一里十坪中田一号:湿地改良により収量増

    • 五条三里四坪下田一号:湿地のため収量低

    • 地子未済なし


    <6>出雲国風土記時代の大原郡人口推計

    仮説:出雲国風土記「大原郡」の郷里構成(八郷・二十四里)+古代の標準人口モデル+地勢(山間地70〜90%)を加味すれば、大原郡の人口はおよそ 14406000(推定)

     1. 風土記が与える「行政単位」情報

    風土記大原郡条構成

      郷:8郷(神原・屋代・屋裏・佐世・阿用・海潮・来次・斐伊)

      里:24里(各郷に3里)

    2. 律令国家の標準人口モデル(郷・里単位)

    ① 1里あたりの標準戸数の仮定値

    • 1里=50〜100戸

    • 1戸=4〜5人

    ② 1里の人口:50100×45=200500

    ③ 大原郡(24里)の人口

      計算方式:200500×24=480012000

     3. 地勢補正

    • 森林(山地):69%

    • 農地:9%(その8割が中山間地)平地農地は全体の約2% 程度

    4, 補正後の人口推定モデル

    ①補正係数:山間地の郡は、標準人口の 0.3〜0.5倍

    ② 大原郡人口(補正後):480012000×0.30.5=14406000


    <7>大原郡の祖税負担:一人あたり 0.3〜0.6石/年

    (1) 前提条件

     ①人口推定:3,0006,000

     ②1戸あたり人数:戸=45戸数=6001,500

     ③祖(租)を負担する主体:

    • 原則:田を班給された成年男子(良民)⇒今、煩雑な計算を避けるために、あえて他の要素は組み込まない。

    • 各戸の「戸主+成年男子」=1〜2人/戸 が祖負担の中心


    (2) 祖を分担した人間の割合(祖負担者数)

    ① 祖負担者数の推定

    • 戸数:600〜1,500戸

    • 1戸あたり祖負担者:1〜1.5人(戸主+成年男子の一部)

    祖負担者数6002,250

    ② 人口に占める割合

    祖負担者割合=6002,2503,0006,000


    • 下限:

    6006,000=10%
    • 上限:

    2,2503,000=75%

    確かにこの範囲内で推定すべきであるが、もう少し弾力的に考えて「人口の30〜50%程度が祖を直接負担した」 して計算したい。

    (3) 祖の総量と一人当たり負担(モデル)

    ① 田地と収量のモデル

    • 課税対象田:500〜1,000町歩(山間値)

    • 1町歩あたり収量:1.5〜2石(湿地・中山間補正)

    総収量7502,000

    ② 祖(租)の税率モデル

    律令制の標準的な計算方式

    • 祖率:収量の3〜5割(上田ほど高く、下田ほど低い)

    祖総量2251,000

    ③ 一人当たり祖負担量

    祖負担者数:約1,000〜1,500人(中央値を採用)

    一人当たり祖=2251,0001,0001,500
    • 下限:

    2251,5000.15石/人
    • 上限:

    1,0001,000=1石/人

    総合的に考えて、

    一人当たり祖負担 ≒ 0.3〜0.6石/年

    したがって、 「班田1人分の標準収量(1〜2石)」 であるとすれば、大原郡における収量の2〜4割程度が祖として貢納するイメージを持たせる。




    2026年7月15日水曜日

    万葉集における鳥声表現と鈴木俊貴先生

    東京大学先端科学技術研究センターの鈴木俊貴准教授は、シジュウカラという身近な鳥が独自の「単語があったり、単語を組み合わせて文章を作ったり、ジェスチャーまで」を持つことを世界で初めて証明した。

    これは独創的で、画期的な研究で、世界で最初であった、

    興味深いことに、単にシジュウカラではないものの、古代人が万葉集において鳥声表現を観察し、その体系化(例:来継ぐ・響く・木声など)を調査しなおすと、鈴木先生の補足資料を提供できる可能性を秘めている。

    万葉人の耳も鋭い。

    だから、郡司も忙しいーー伊勢国安濃郡の文書体系一覧(第1稿)

     第1稿である。今後、第2稿以降で、適宜、修正・増補・補綴を加えるつもりである。

    (1)安濃郡の文書体系一覧

    系統文書名作成主体主な内容・役割
    租税系正税帳郡司・郡書生租税全体の基本台帳
    調帳郡司・郡書生調(絹・布・特産物)の記録
    庸帳郡司・郡書生労役・代納の記録
    官田地子帳郡司・郡書生官田・ミヤケ田の地子・収穫
    出挙帳郡司・郡書生稲の貸付・返済の記録
    戸口・田地系計帳郡司・郡書生戸口・課丁・田地の総合台帳
    郷戸課丁帳郷長→郡郡司郷ごとの戸数・課税対象者
    田租帳郡司・郡書生田地ごとの租税額
    貢調・神領系調進帳郡司・郡書生調の中央進上分の整理
    貢物帳郡司・郡書生伊勢特産物(塩・アワビ(熨斗鮑=のしあわび)鮨鮑(すしあわび:発酵加工品)ツオ(煮堅魚・麁堅魚:乾燥加工品)海藻類(ワカメ・アラメなど)の貢納
    神戸帳度会氏・神戸司外宮神領の戸口台帳(戸籍+計帳)
    神田帳度会氏・神戸司神領田の土地台帳(田地台帳+田租帳)
    官人・行政系考文国司→郡司郡司・在地官人の勤務評定
    国符国司安濃郡への命令文書
    庁宣国司実務的指示・通達
    進上・往復系公文目録郡司・郡書生伊勢国府へ送る文書の一覧
    遊牒国司・隣国司国境・往来・物資確認
    返抄中央→国司受領・照合の返信
    技術・地理系(安濃郡固有)条里地割図郡書生安濃川中流域の条里プラン
    水利帳郡司・郡書生安濃川の堰・溝・灌漑管理
    土木帳郡司・郡書生堤防・道路・橋梁の維持記録

    (2)伊勢国府と安濃郡の文書流通経路(再構成)

    1. 下から上へ(安濃郡 → 伊勢国府 → 中央)

    • 農民・部民 → 郷長・里長

      • 内容: 戸口・田地・収穫量・納税状況

      • 形式: 口頭+簡易記録

    • 郷長・里長 → 郡司・郡書生(安濃郡)

      • 内容: 郷戸課丁帳・田租帳の素材

      • 結果: 郡司・書生が 計帳・正税帳・調帳・庸帳 を作成

    • 郡司・書生 → 伊勢国府(国司)

      • 内容:

        • 計帳・税帳類

        • 調進帳・貢物帳

        • 神戸帳・神田帳(神領分は度会氏経由で国司へ)

      • 形式: 公文目録 にまとめて進上

    • 伊勢国府 → 中央(太政官・民部省など)

      • 内容: 国単位に集約された計帳・税帳・貢調帳

      • 結果: 中央で受領・照合 → 返抄 により受領通知が国司へ戻る

    2. 上から下へ(中央 → 伊勢国府 → 安濃郡)

    • 中央 → 伊勢国府(国司)

      • 内容: 律令・格・詔勅・年次の課税方針

      • 形式: 詔書・太政官符など

    • 伊勢国府(国司) → 安濃郡(郡司)

      • 内容: 課税額・調・庸の割当、神領の扱い、考課方針

      • 形式: 国符・庁宣

    • 安濃郡(郡司・郡書生・案主・鎰取・駆使・伝馬長・徭丁など) → 郷長・里長

      • 内容: 実際の徴税・調進・労役の割当

      • 形式: 在地レベルの指示(口頭+簡易文書)

    3. 安濃郡固有の「横の流れ」(技術・神領)

    • 郡書生・案主・鎰取・駆使・伝馬長・徭丁など←郡司(大領・少領・主政・主帳)

      • 内容: 条里地割図・水利帳・土木帳

      • 役割: 課税・灌漑・治水の技術的基盤を提供

    • 度会氏・神戸司 → 国司・郡司(大領・少領・主政・主帳)

      • 内容: 神戸帳・神田帳・神税帳

      • 役割: 神領と国衙領の境界・税制調整

    2026年7月13日月曜日

    単龍環頭大刀は物部氏、双龍環頭大刀は蘇我氏の配布品 だとする仮説[清水みき1986)への注目

    7世紀前半から出土する単龍環頭大刀は物部氏、双龍環頭大刀は蘇我氏の配布品 だとする清水みき氏の仮説に注目したい。丹後半島最大級の横穴式石室を持つ円墳である湯船坂2号墳(京都府京丹後市久美浜町)から出土したこんどうそうそうりゅうかんとうぎんそうけいとう刀発掘に従事した清水氏が発掘報告書に投稿した論文に載録された仮説である。

    清水みき 「付載3:湯舟坂2号墳出土環頭大刀の文献的考察」久美浜町教育委員会『湯舟坂2号墳』1986年 ) 

    その仮説は実証されたとは言いがたいが、しかしその見通しの提示に刮目したい。

     そもそも日本列島出土の龍鳳文環頭大刀は朝鮮半島から持ち込まれた品だとするのが通説である。その際に、龍鳳文環頭大刀 は伽耶系(さらに付記すれば、百済系の意匠に伽耶系の技術が加わった品か)、三累環頭・三葉環頭大刀は新羅系だと推定しても良いだろう。

    ここでの問題は、輸入品【舶載品)と国内生産品とのスイッチの時期であろう。

    双龍環頭大刀研究に関しては、例えば

    ①小倉田古墳(福知山市夜久野町今西中915番地)資料

    ②島根県かわらけ谷横穴墓資料

    などの類似品からも、清水説の可能性を想定させる。専門外ゆえに断定的な判断は避けるが、少なくとも全面否定は不可能ではないだろう。

    b_28_016.pdf

    ちなみに、単龍鳳環頭大刀の分類と編年に関しては、新納泉氏と町田章氏の先行研究があり、その編年は現在の標準となっていると聞く。


    <参考文献>

    穴沢味光・馬目順一 「龍鳳文環頭大刀試論 一韓国出土例を中心として-」 『百済研究』第7輯、229-263頁、 忠南大学校百済研究所、1986年

    穴沢味光・馬目順一 「日本における龍鳳環頭大刀の製作と配布 一一つの試論-」 『考古学ジャーナル』 266、 16-22頁、ニューサイエンス社 、1986年

    新納泉 「単竜・単鳳環頭大刀の編年」 『史林』第65巻第4号110-141頁、史学研究会 、11982年

    新納泉 「戊辰銘大刀と装飾付大刀の編年」 『考古学研究』第34巻第3号、47-64頁、考古学研究会、1987年 

     町田 章「環頭大刀二三事」 『山本清先生喜寿記念論集山陰考古学の諸問題』 277-300頁、山本清先生喜寿記念論集刊行会、1986年