東京大学史料編纂所のデータベースは便利であり、非専門家の私とて便利に使用している。
しかしながら、膨大な資料ゆえに、その記述が雑で、「紋切型」の項目がある。
**紙質
である。ある正倉院文書の説明は、次の通りの用語で埋め尽くされる。誰一人として疑うこともなく。
*紙質:「楮紙(斐交リ)」
とある。ご存じのように、年に一度だけ奈良国立博物館の正倉院展を省けば、一般国民が正倉院文書を拝見することはなく、宮内庁勤務か東京大学史料編纂所の方々しか許されていないだけに、もう少し丁寧な記述が欲しい。つまり、あまりにも膨大な作業量であるので、いつのまにか流れ作業式の記述となっており、俗にいう「以下同文」となっている気がする。泉下の皆川完一先生はその姿をお喜びになるだろうか。温厚な坂本太郎先生は「まあまあ」とお話になったとしても。
その点、専門家である湯山賢一氏の「古代料紙論ノート」を見ると、以下の通りである、
「正集第28巻坊津から第14紙までの天平4年越前国郡稲帳と、第15紙の同年佐渡国正税帳や第16、17紙の、天平7年以降の査読に正税帳の料紙とを比較すると、越前国産は繊維が短く切断され、「舂」(叩解)によって、フィブリル化が顕著で塵取りも良好な上質な楮紙打紙であるのに対し、佐渡国産は塵取りが十分に行われずに樹皮片を含み、すでにこの段階で後世に続く越前の抄紙技術上の優位性が明白にみてとれる。紙数の都合上限られた例のみを取り上げたが、奈良朝の公文書料紙は、いずれも@延喜式」の造紙工程に則って、繊維は5mm程度に切断された上で十分に叩解されており、抄紙工程上は明らかに略同一の過程を経て造られたものと判断できる共通の特徴を有している。」(81頁)
ここで注意を喚起したいのは、
*斐交り
の意味である。ぜひとも専門家のご意見を伺いたい。写真でしか観察できない非専門家からの提案ではなく、その職責から多数の正倉院文書をご覧になってきた専門家、例えば稲田奈津子先生のご意見を拝聴したいと願う。
実見できないだけに、もどかしさを感じてるが、私の提案は、実見者による工夫と知恵があってほしいという点である。ただし、調査者からは、とてもそのような悠長な時間はなく、断片一つでも多く、制限された時間と期間内で成し遂げなくてはならない使命を、「どうぞご理解いただきたい」という弁解が届くに違いない。それを十分に織り込んだ提案である。遠い、遠い、将来の課題である。
私が知る限りでの適任者は、唯一、竹内理三先生である。あの世で竹内先生に偶然に出会えるならば、正倉院文書の紙談義ができれば良いが、平素、心がけの悪い私などはその機会に恵まれるとすれば、それを僥倖というだろう。
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