丹波国何鹿郡〈伊看我評〉出土の木簡:「・伊看我評・当帰五斤」とある。
この木簡に関する概略は、下記のノートで判明するが、しかしながら、これでは隔靴搔痒の感多く、全くの情報不足である。
(1)刈米達夫著『最新生薬学 第 6 改稿版』(1990)によると,薬能として,
*鎮痛,鎮静,強壮, 通経薬・温薬で,血を補い,古い血を去る働き(補血)
が あるという。
今、この田中らの論文に従って、この「当帰」に関して補足説明をするならば、
①薬能は鎮痛作用。
(3)さらに、林元英「紫根および当帰の薬理学的研究(第3報) 一 エキスおよび紫雲膏局所適用の炎症反応におよぼす影響」『日薬理誌』73、205~214、1977年
によれば、この論文で判明した事実は、創傷治癒における「当帰」の薬能である。
「紫根エキスは局所適用において,炎 症性の血管透過性充進ならびに浮腫を明らかに抑制し,
局所の発熱に対しても有意な抑制効果を示し,急 性炎症反応に対して抗炎症作用を有することが認められた.他
方亜急性慢性炎症反応としての肉芽増殖を主体とした創傷治癒に対しては,明 らかな治癒促進作用を示し,い わ
ゆる抗炎症薬とは異なった効果を呈した.そ していずれの作用においても0・2%前 後の濃度が最も顕著な効果を
呈した.当 帰エキスは血管透過性充進ならびに急性浮腫を概して抑制したが,起 炎物質によっては抑制効果のな
い場合 もあり,ま た濃度的にも一貫した効力を示さず,さ らに炎症性発熱および創傷治癒に対しては作用を全く
示 さなかった.従 って当帰は急性炎症反応に対して抑制傾向を有する程度のもので,積 極的な効果は期待しにく
い ものと思われた・この両者を併用した紫雲膏は紫根エキスと同様急性炎症反応を有意に抑制し,創 傷治癒を明
らかに促進した.そ の効力は紫根と同等か多少強力であった.当 帰エキスとの配合意義については充分な説明が
出来ないが,当 帰にも軽度な抗炎症作用があり紫根エキスに協力するかもしれない.」
という点である。
(4)一方で、木村容子・杵淵彰らの研究によって、主に女性患者の月経困難症や月経前の排卵期や月経前半の頭痛やめまい、むくみなどに当帰芍薬湯の効果が期待されるという。木村容子ほか4名「当帰芍薬湯が有効な頭痛の症例について」『日東医誌』62巻6号、627-6333頁、2011年
だと指摘する。
(5)総合的な見解は、
*柳沢清久「 日本薬局方に見られた向精神・神経薬の変遷(その22)
当帰の成分研究経緯に関する史的考察」『 薬史学雑誌 』54巻2号、104-111、2019年
に詳しい、一読をこう。
「当帰の精油のエーテル可溶性成分の中で,ligustilideが
有効成分として,また水溶性成分の中で,ferulic acidが
有効成分として,それぞれ証明され,またそれらの薬理作
用も解明された.このことで,従来の当帰の鎮痛,鎮静,
鎮痙,通経,補血などの伝統的,経験的効果が科学的に立
証された.」
<木簡庫>
| 上端切断の後表裏から面取り、下端・左右両辺削り。「当帰(トウキ)」は、セリ科の多年草トウキ(和名カラトウキ)の根に比定される。『本草集注』草木中品、『本草和名』草中に「也末世利、宇末世利、加波佐久」、『医心方』に「宇末世利、也末世利、於保世利、加波佐久」とみえる。『延喜式』典薬寮に、丹波国が当帰を貢納する規定はみえないが(78丹波年料雑薬条)、隣国の但馬国に「当帰十斤」の規定があるなど十七箇国の年料雑薬としてみえる(80但馬年料雑薬条など)。奈良県飛鳥京跡苑池遺構から「当帰二両」(奈良県立橿原考古学研究所『史跡・名勝飛鳥京跡苑池(一)』五一号)と記した木簡が出土している。 |
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