2020年4月11日土曜日

571番歌 月夜よし河音清けしいざここに行くも去かにも遊びて帰かむ



571番歌
月夜よし河音清けしいざここに行くも去かにも遊びて帰かむ




(1)   月夜
読みは「つきよ」ではなく、「つくよ」。

(2)   河音
母音連続回避現象である Kafaoto⇒ Kafato (ao ⇒ a)

蘆城の駅家において耳にする川音は、宝満川である。

(3)原文「河音清之」の「清之」
  両説あり、「さやけし」と「きよし」。この二語の語意を基に、解釈者の判断に委ねたい。私は「さやけし」と解する。
(4)「いざ」
  原文は「率」。『日本書紀』開化天皇紀元条には「率川」が「伊社箇波」とあり、「いさ」と読むと教える。

(5)遊びて帰かむ

  筑紫野市吉木の御笠遺跡群A-1地区では、発掘調査の結果、7世紀後半から8世紀前半ころと考えられる3面に庇を持つ非常に立派な5間×6間の掘立柱建物1棟が発見された。その建物こそ、大伴旅人らが餞宴の場であったようだ。

(6)防人佑
   「さきもりのすけ」と読む。「防人司佑」(「さきもりのつかさのすけ」、329番歌)と同一。

『職員令』69、大宰府条に「防人正一人。【掌。防人名帳。戎具。教閱。及食料田事。】佑一人。【掌同正。】」とあり、防人の名簿、武具や教練・食料田などを管掌していた。

<参考記事>
職員令六九 大宰府條:大宰府【帶筑前國】/主神一人。【掌。諸祭祠事。】帥一人。【掌。祠社。戶口簿帳。字養百姓勸課農桑糾察所郡貢舉。孝義。田宅。良賤。訴訟。租調。倉廩。徭役。兵士。器仗。鼓吹。郵驛。伝馬。烽候。城牧。過所。公私馬牛。闌遺雜物。及寺。僧尼名籍。蕃客。歸化。饗讌事。】大貳一人。【掌同帥。】少貳二人。【掌同大貳】大監二人。【掌。糾判府內審署文案勾稽失察非違】少監二人。【掌同大監】大典二人。【掌。受事上抄。勘署文案檢出稽失讀申公文】少典二人。【掌同大典】大判事一人。【掌。案覆犯狀斷定刑名判諸爭訟】少判事一人。【掌同大判事】大令史一人。【掌。抄寫判文】少令史一人。【掌同大令史】大工一人。【掌。城隍。舟楫。戎器。諸營作事。】少工二人。【掌同大工】博士一人。【掌。教授經業課試學生】陰陽師一人。【掌。占筮相地。】醫師二人。【掌。診候。療病。】算師一人。【掌。勘計物數】防人正一人。【掌。防人名帳。戎具。教閱。及食料田事。】佑一人。【掌同正。】令史一人。主船一人。【掌。修理舟楫】主廚一人。【掌。醯。醢。韲。隗。醬。險。鮭等事。】史生廿人


(7)大伴四綱


天平初年頃、防人司佑(万葉集)。天平十年(738)四月、大和少掾。天平十七年十月、雅楽助正六位上行助勲九等。

本首以外にも、大伴四綱の歌が三首伝わっている。
1、やすみしし我が大君の敷きませる国の(うち)には都し思ほゆ(万3-329
2、藤波の花は盛りに成りにけり奈良の都を思ほすや君(万3-330
3、大伴四縄、宴に吟う歌一首
こと繁み君は来まさず不如帰汝だに来鳴け朝戸開かむ (万8-1499

ところで、大伴氏を表記するとき、宿祢が挿入されるのが通例だが、大伴四綱の場合は「宿祢」を欠いている。その理由は不明。

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