金属専門家の言は貴重である。この論文発表が一九六八年であるので、その後の研究の深化で訂正する点も生じているにちがいない。だが、重要なのは「知の体系」である隣接諸学問をリンクしながら、奈良学に関する「知の集積」を図ることである。
例えば、「なぜ、塗 金を完了するのに5年 の歳月」を要したかなどは、石野氏の論を踏まえなくてはならない。
石 野 亨「奈 良東大寺大仏の塗金 古 仏 像 の表面処理について」
https://doi.org/10.4139/sfj1954.15.6_7
以下は、石野氏の論文の一部。
1)「延暦僧録に 「塗練金4千 百八十七両一分四銖,為 滅金 二万五千百三十四両二分銖,右 具奉塗御躰如 件」とあるが,こ れは金4187両 を水銀に溶か し,ア マルガムとしたもの25334両 を仏体に 塗ったと読解するのが妥当であろう.
すなわち,金 と水銀を1:5の 比率で混合 して,ア マルガムとし,こ れを塗って加熱 し,塗 金を完了するのに5年 の歳月を要して いる.
これは第一に,鋳 放し表面を塗金しうるま で平滑にすること,第 二に,塗 金後の加熱を 十分慎重に行わねば,加 熱時に発生する水銀 の蒸気は非常に有毒なので,す でに大仏殿の 建造も終っている状況(第1表 に示すように 大仏殿は751年 完成し,塗 金は752年 より開 始されている)で は大仏殿内は水銀蒸気が充 満 し,作 業者にとって非常に危険な状態にあ ったことが容易に想像される」
2)「(3) 塗金用材料の使用量と塗金の厚サに ついて 朝比奈貞一氏がアイソトープを用いて,東 大寺大仏の塗金残存部の厚サを測り,厚 い所 で1.31mg/cm2(1mg/cm2は 純金 として約 0.5ミ クロン)と いう値を得ているが,先 の アマルガムの実験で得られた試片の塗金厚サ は3.7~9.2mg/cm2(約1.9~4.8ミ クロン) であった.長 年月の間に塗金層が次第に薄く なったと考えられるので,い ま,完 成当時の 大仏の塗金厚サを9.2mg/cm2と すると,大 仏の表面積527m2(東 大寺要録の記録より換 算)と して,金 の総量は48.48kgで ある.
先 に示した ごとく,文 献によれば塗金に使用し た金(練 金)4187両 とあり,こ れ もC.G.S単 位に換算すると58.5kgと な り,大 体必要金 量に近い値を示している
0 件のコメント:
コメントを投稿