以下の文章は、すべて下記の上原先生の玉稿の紹介に過ぎない。
紹介文中に誤りがあるとすれば、それは私紹介者の落ち度であるので、正確を期するために原文をぜひ一読くださるよう希望する。
上原真人「初期瓦生産と屯倉制」『京都大學文學部研究紀要, 』2003年
上原氏の指摘に学びたいのは、まず氏の専門が考古学であるために、簡にして要を得た氏の考古学的説明である。この説明の巧みさに感心する。
結論から言えば、、これまで渡来系とか朝鮮半島系などと大きなくくりで把握してきた外来の瓦製造技術や集団を、今いっぽ精緻に2種類に大別して理解できるまでに、考古学的情報が蓄積してきたことである。
*通称「花組」瓦と通称「星組」瓦
である。比喩による区分の上手さにも舌を巻くが、高度成長期以来今日に至るまで、日本各地で国土開発に伴う、主に緊急考古学的調査結果を、奈良文化財研究所などの努力で資料収集の労力と時間が軽減されたお蔭も一因であろうが、飛躍的にデータ数が拡充されており、そのエビデンスの確実さに驚嘆する。
さて、上原氏の説明に改めて耳を傾けよう。飛鳥寺造営にあたり来日した4人の瓦博士が寺建設用地の南東の丘陵西斜面に存在する2基の登窯(=穴窯・筈窯)であることを説明し、南の1基は痕跡を残すだけ だが、北の 1基は全長約10mで、長7.5mの焼成室床面lこ20段の階 段を削り出した 登窯であったという。
それはそれとして、興味深いのは飛鳥寺創建瓦は 二群に大別でき、しかも複数の系統が存在した百済の瓦窯類型の一つの百済式瓦生産の最新技術であったことである。
1)通称「花組」瓦
ひとつは弁端に切れ込みのある桜花形花弁(弁端切込式) を配した素弁十葉蓮華紋軒丸瓦を 基準とするグループ(通称「花組」)
技術的特徴 ① 軒丸瓦の瓦当は薄く、裏面を 平坦に仕上げる。 ただし、同じ 紋様型で型抜きした同箔瓦で も、磨耗や剥離(箔傷)が進行 した箔の製品では厚手の瓦当が 多くなる。
② ともなう丸瓦は葺き重ねるた めの段がない無段式(行基葺式) で、一木の裁頭円錐台形の内型 に巻きつけた粘土円筒を縦に二 分して作る。 分割するための刻 み(分割裁線)は、凸面側から 切り込む。
③ 瓦当に接合する丸瓦の先端 は、凸面側を斜めに箆削りする。 箔傷が進行すると、凹凸両面か ら斜めに削るもの、未加工のも 。削った面や端面に刻みを入れるものも出現する・
④ ともなう平瓦は、裁頭円錐台形の桶型に粘土板を巻きつけて作った粘土円 筒を四分割した粘土板橋巻作り平瓦である。 桶型外面の4ヶ所に撚紐を縦に 通した分割突帯を設け、その突帯で粘土円筒内面の分割位置に圧痕(分割界 線)を付け、その圧痕を目安に内面から刻み(分割裁線)を入れる。
⑤ 平瓦凸面には粗い格子・斜格子・並行条線・縄目など各種の叩きを施した のち、横に粗くナデて調整する。
⑥ 並行条線の平瓦では、桶型からはずした段階で、十分に叩きが及ばなかっ た端部を当て具と叩き板で補足的に叩き締める (補足叩きの存在)。
⑦ 赤焼の瓦(赤瓦)が主体を占める。
2)通称「星 組」瓦
これに対して、やや角張った花弁の先端に珠点を置く弁端点珠の素弁十一葉 蓮華紋軒丸瓦を基準とするグループ(通称「星 組」) には、以下のような技術的特徴がある。
①'軒丸瓦の瓦当裏面は中央に向けて高まり、回転する成形台上で瓦当部とな る粘土円板を成形したらしい。
②'ともなう丸瓦は葺き重ねる段のある有段式(玉縁式)である。一木ででき た内型は、筒部に対応する部分だけで、玉縁部はその上に粘土紐を巻き上げ て回転成形する。
③'瓦当に接合する丸瓦の先端は、凹面側をえぐって断面を片柄状に加工する。
④'ともなう平瓦は粘土板橋巻作りで、桶型外面の4ヶ所上下に紐を結んだ癌 で突起(分割突起)を設け、その圧痕を巻きつけた粘土円筒を分割する目安 とする (分割界点)。分割裁線は凹面から切り込む。
⑤'平瓦凸面は丁寧に縦ナデする。 凸面の叩きには正格子・並行条線がある。
⑥'現在のところ、補足叩きの存在は指摘されていない。
⑦'赤焼きの瓦はなく、灰色をした黒瓦である。
という。
その「星組」は、飛鳥寺、豊浦寺金堂、斑鳩寺金堂、四 天王寺、新堂廃寺へと、かれらの特長である素 弁九葉蓮華紋軒丸瓦の瓦当箔や、やや丸味を帯びた花弁の先端に珠点を置 く素弁八葉蓮華紋軒丸瓦の瓦当箔などの瓦技術を駆使したという。しかも蘇我氏や上宮王家の 直接の支配下で初期寺院の造営に貢献した造瓦集団であった。
一方、飛鳥寺「花組Jの指標である素弁十葉蓮華紋軒丸瓦と同箔品はこれまで「高句麗系」軒丸瓦とか、あるいは新羅経由の「高句麗新羅系」と理解されてきた瓦であり、豊浦寺所用瓦(宇治市隼上り窯)や京都市北野廃寺瓦(京都市幡 枝元稲荷窯)などに使用された。
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