だから、国司は忙しい。
<要旨> 国府で作成された紙媒体文書は、行政機能からみれば租税・戸籍・貢進・考課・進上・行政命令など約20種類前後の文書群に整理できる。一方、『公式令』や『延喜式』に現れる個別の帳簿名・文書様式まで数えると約80種類に達する。さらに各文書については、本帳・案(控え)・写・勘(監査用)など複数部が作成されたため、実際に国府で管理・運用された紙文書の冊数は、その種類数を大きく上回っていた。
<本論>
いまさらの概説的な整理となるが、律令制において各国では膨大な書類が作成された。
この点では、鐘江宏之『国府機構の形成と文書行政』は優れた研究成果である。
国府機構の形成と文書行政 - 国立国会図書館デジタルコレクション
本稿では、鐘江氏らの先行研究を踏まえて、の観点から整理しなおすとと次の通りになる。
律令制下の国府における紙媒体文書の体系
律令制下の国府では、多数の紙媒体文書が作成・保管・中央へ進上された。行政機能からみると、おおむね10系統(約20の文書群)に整理することができる。一方、『公式令』・『延喜式』などの法令・格式に現れる個別の帳簿名・文書様式まで数えると、約80種類前後に及ぶ。
① 税帳系(租税・財政管理)
租税・正税・出挙・官田収入など、国府財政を管理する帳簿群である。
- 正税帳
- 郡稲帳
- 倉付帳
- 出挙帳
- 損益帳
- 収納帳
- 支出帳
- 納帳
- 受領帳
- 官田地子帳
- 運脚帳
- 輸送帳
- 貸付帳
- 利息帳
- 穀帳
- 積帳
(約15種類)
② 計帳系(戸籍・人口・土地管理)
戸口・課丁・班田・課税基礎資料を管理する帳簿群である。
- 戸籍
- 計帳
- 手実
- 負名帳
- 郷戸課丁帳
- 田租帳
- 浮浪帳
- 逃亡帳
- 班田帳
- 班給帳
- 班収帳
- 校帳
(約10種類)
③ 貢調系(調・庸・雑徭・貢進)
中央へ納める物資・労役・運送を管理する帳簿群である。
- 調帳
- 庸帳
- 中男作物帳
- 雑徭帳
- 雇役帳
- 貢物帳
- 調進帳
- 貢進帳
- 運脚帳
(約7種類)
※運脚帳は租税輸送にも用いられるため、税帳系との関連も深い。
④ 考課系(官人・人事管理)
国司以下の官人の勤務評定・異動・引継ぎを管理する文書群である。
- 考文(考帳)
- 解由帳
- 解由状
- 任替帳
- 勤仕帳
- 番上帳
- 番替帳
(約7種類)
⑤ 進上系(中央との文書往復)
国司が太政官・民部省などへ文書を送付する際の管理文書である。
- 公文目録
- 遊牒
- 返抄
⑥ 行政命令系(国府内部行政)
国司が郡司・在地官人・寺社などへ命令・通知を発する文書群である。
- 国符
- 国司庁宣
⑦ 軍事系
軍団・兵士・兵器・軍馬・軍粮を管理する帳簿群である。
- 軍団帳
- 兵士帳
- 兵器帳
- 馬帳
- 軍粮帳
(約5種類)
⑧ 祭祀系
官社・神田・祭料など祭祀行政を管理する帳簿群である。
- 神戸帳
- 神税帳
- 祭料帳
- 神宝帳
- 神田帳
(約5種類)
⑨ 訴訟・司法系
裁判・刑罰・獄政に関する文書群である。
- 訴状
- 勘状
- 獄帳
- 断獄帳
- 囚帳
(約5種類)
⑩ 公文書・記録系
日常行政に用いられる文書様式・記録簿である。
(A)文書様式(『公式令』)
- 解
- 移
- 符
- 牒
- 関
- 申文
- 上表
- 案
- 案文
- 勘文
※これらは**帳簿の種類ではなく、公文書の様式(フォーム)**であり、「解で正税帳を送る」「符で命令を伝える」といった形で各種文書に用いられた。
(B)行政記録
- 計会帳
- 日録
- 公文日記
- 国印簿
- 駅家帳
- 伝馬帳
- 船帳
- 工匠帳
- 医帳
- 薬帳
(約10種類)
文書の作成部数
さらに重要なのは、これらの帳簿は一冊だけ作成されたわけではないことである。同一文書についても、
- 正税帳本(提出用)
- 正税帳案(国府控え)
- 正税帳写(副本)
- 正税帳勘(監査用)
- 出挙帳本
- 出挙帳案
など、用途に応じて複数部が作成・保管された。したがって、国府で実際に管理・運用された紙文書の冊数は、文書種類数をはるかに上回っていた。
総括
以上を総合すると、国府で作成された紙媒体文書は、行政機能からみれば約10系統・約20の文書群に整理できる。一方、『公式令』『延喜式』に規定される個別の帳簿名・文書様式まで含めると約80種類前後に達し、さらに各文書について本帳・案・写・勘など複数部が作成されたため、国府には常時膨大な量の紙文書が保管・運用されていたと考えられる。
0 件のコメント:
コメントを投稿