2026年7月15日水曜日

だから、国司は忙しいーー「国府作成の紙媒体文書」の一覧

だから、国司は忙しい。

<要旨> 国府で作成された紙媒体文書は、行政機能からみれば租税・戸籍・貢進・考課・進上・行政命令など約20種類前後の文書群に整理できる。一方、『公式令』や『延喜式』に現れる個別の帳簿名・文書様式まで数えると約80種類に達する。さらに各文書については、本帳・案(控え)・写・勘(監査用)など複数部が作成されたため、実際に国府で管理・運用された紙文書の冊数は、その種類数を大きく上回っていた。

<本論>

いまさらの概説的な整理となるが、律令制において各国では膨大な書類が作成された。

この点では、鐘江宏之『国府機構の形成と文書行政』は優れた研究成果である。

国府機構の形成と文書行政 - 国立国会図書館デジタルコレクション

本稿では、鐘江氏らの先行研究を踏まえて、の観点から整理しなおすとと次の通りになる。

律令制下の国府における紙媒体文書の体系

律令制下の国府では、多数の紙媒体文書が作成・保管・中央へ進上された。行政機能からみると、おおむね10系統(約20の文書群)に整理することができる。一方、『公式令』・『延喜式』などの法令・格式に現れる個別の帳簿名・文書様式まで数えると、約80種類前後に及ぶ。

① 税帳系(租税・財政管理)

租税・正税・出挙・官田収入など、国府財政を管理する帳簿群である。

  • 正税帳
  • 郡稲帳
  • 倉付帳
  • 出挙帳
  • 損益帳
  • 収納帳
  • 支出帳
  • 納帳
  • 受領帳
  • 官田地子帳
  • 運脚帳
  • 輸送帳
  • 貸付帳
  • 利息帳
  • 穀帳
  • 積帳

(約15種類)


② 計帳系(戸籍・人口・土地管理)

戸口・課丁・班田・課税基礎資料を管理する帳簿群である。

  • 戸籍
  • 計帳
  • 手実
  • 負名帳
  • 郷戸課丁帳
  • 田租帳
  • 浮浪帳
  • 逃亡帳
  • 班田帳
  • 班給帳
  • 班収帳
  • 校帳

(約10種類)


③ 貢調系(調・庸・雑徭・貢進)

中央へ納める物資・労役・運送を管理する帳簿群である。

  • 調帳
  • 庸帳
  • 中男作物帳
  • 雑徭帳
  • 雇役帳
  • 貢物帳
  • 調進帳
  • 貢進帳
  • 運脚帳

(約7種類)

※運脚帳は租税輸送にも用いられるため、税帳系との関連も深い。


④ 考課系(官人・人事管理)

国司以下の官人の勤務評定・異動・引継ぎを管理する文書群である。

  • 考文(考帳)
  • 解由帳
  • 解由状
  • 任替帳
  • 勤仕帳
  • 番上帳
  • 番替帳

(約7種類)


⑤ 進上系(中央との文書往復)

国司が太政官・民部省などへ文書を送付する際の管理文書である。

  • 公文目録
  • 遊牒
  • 返抄

⑥ 行政命令系(国府内部行政)

国司が郡司・在地官人・寺社などへ命令・通知を発する文書群である。

  • 国符
  • 国司庁宣

⑦ 軍事系

軍団・兵士・兵器・軍馬・軍粮を管理する帳簿群である。

  • 軍団帳
  • 兵士帳
  • 兵器帳
  • 馬帳
  • 軍粮帳

(約5種類)


⑧ 祭祀系

官社・神田・祭料など祭祀行政を管理する帳簿群である。

  • 神戸帳
  • 神税帳
  • 祭料帳
  • 神宝帳
  • 神田帳

(約5種類)


⑨ 訴訟・司法系

裁判・刑罰・獄政に関する文書群である。

  • 訴状
  • 勘状
  • 獄帳
  • 断獄帳
  • 囚帳

(約5種類)


⑩ 公文書・記録系

日常行政に用いられる文書様式・記録簿である。

(A)文書様式(『公式令』)

  • 申文
  • 上表
  • 案文
  • 勘文

※これらは**帳簿の種類ではなく、公文書の様式(フォーム)**であり、「解で正税帳を送る」「符で命令を伝える」といった形で各種文書に用いられた。

(B)行政記録

  • 計会帳
  • 日録
  • 公文日記
  • 国印簿
  • 駅家帳
  • 伝馬帳
  • 船帳
  • 工匠帳
  • 医帳
  • 薬帳

(約10種類)


文書の作成部数

さらに重要なのは、これらの帳簿は一冊だけ作成されたわけではないことである。同一文書についても、

  • 正税帳本(提出用)
  • 正税帳案(国府控え)
  • 正税帳写(副本)
  • 正税帳勘(監査用)
  • 出挙帳本
  • 出挙帳案

など、用途に応じて複数部が作成・保管された。したがって、国府で実際に管理・運用された紙文書の冊数は、文書種類数をはるかに上回っていた。


総括

以上を総合すると、国府で作成された紙媒体文書は、行政機能からみれば約10系統・約20の文書群に整理できる。一方、『公式令』『延喜式』に規定される個別の帳簿名・文書様式まで含めると約80種類前後に達し、さらに各文書について本帳・案・写・勘など複数部が作成されたため、国府には常時膨大な量の紙文書が保管・運用されていたと考えられる。

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