「酒匂川」
神奈川県の報告書によると、この「酒匂川」は
まず、酒匂を「さかわ」ではなく、現在、姓や地名で「 さこう」という読みから、我々の調査を進めていきたい。なぜなら、本来であれば、「さかわ(酒匂)」だけでよいものの、我々の考察が終わってから、いや「さこう」という形をどのように説明するのかという関連質問に備えて、その対策である。
①河野 かわの Kawa+no →Kä+No →K/øː/+No →こうの
②河内 かわち kawachi →Kä+chi →K/øː/+Chi →こうち
このふたつの平行事例から判明するように、古代語において、子音音「W」の弱化現象とともに、a の長母音化「 ä 」が発生。「ä + o 」の母音連続で、後行同化となり「o+o」の母音へと交代する。
したがって、酒匂にしても
③酒匂 さかわ SaKaWa → SaKa+a →SaK+ä → Sak+/øː/(o の長母音)
へと至るという、日本語史で典型的な子音変化をたどった音韻学的変化があるので、この「さこう」形であれ、「さかわ」形であれ、古形は「さかわ」であると理解できよう。
ここで不思議なのは、漢字「匂」を使用する漢字語構成となっていることである。木簡庫での用例を探せば、出土した木簡には、
①「川匂廣公○辟秦」(平城京、年代未詳)
②「□□□〔匂郡ヵ〕」(平城京、年代未詳)
として、奈良時代においても漢字「匂」を使用している。この漢字「匂」は果たしてどのように読まれたか万葉仮名を持たないだけに、正解に至る道はない。
正倉院文書に
*鎹一匂 用経師等曹司門戸打料
「匂(にょう)」の用例を見る。この漢字は「条・箇・本」などに近い数量語であり、細長いもの・釘類・金具類の単位の意味である。
- 匂 :女救切
とあり、
- 声母:娘母(n 系)
- 韻:尤韻
- 声調:去声
ところで静岡県磐田市匂坂(さぎさか)」の現存地名での「匂」を「さぎ」と読む例に関心を振り向けてもよいだろう。地名では「さぎさか、さきさか」と読むが、人名となると「こうさか」とも読むようである。この磐田の地は奈良時代には遠江国府・遠江国分寺・遠江国分尼寺が置かれ、遠江国の中心地であった。
この「サキザカ」の読みが時代をいつまで遡るのかは不明であるが、興味深いのは、「匂」を「コウ」と読む事例である。
遠江国:「匂+坂」を「こう+坂」と読むならば、「川+坂」の意味
相模国:「酒+匂」を「さ+こう」
と見れば、「こう」→ k+/øː/(o の長母音)→ Ka+a → KaWa →KaFa→KaPa の音変化を予想させる。したがって、「こうさか(匂坂)」とあれば、「川+さか(坂)」の語形まで想像させるが、その確証はまったくない。磐田市匂坂は天竜川沿いにあるので、この川と意味は合うが、それは「他人の空似」であるかもしれない。
その一方で、「匂坂」を「さき+坂」と読むならば、
「さき:<しり(後・尻)の対>。前方へ突き出ている部分。先端。転じて前途、将来の意。類義語マヘは目方(まへ)で視覚的に前方の位置。
①(前方への)突出部
②前方
③先頭
その他」(『岩波古語辞典』559頁)
仮に「こう+坂」と分析できるならば、この「こう」は
<参考文献>
磐田市教育委員会文化財課 2014 『特別史跡遠江国分寺跡発掘調査概報』磐田市教育委員会文化財課
0 件のコメント:
コメントを投稿