『万葉集』巻4、555番歌は、
*君がため醸みし待酒安の野に独りや飲まむ友無しにして
[題詞]<大>宰帥大伴卿贈大貳丹比縣守卿遷任民部卿歌一首
[原文]為君 醸之待酒 安野尓 獨哉将飲 友無二思手
である。大弐丹比県守卿が民部卿に遷任する時に、太宰大伴卿(大伴旅人)が贈った歌である。
私の関心は「安の野」にある。都に呼び寄せられて、栄達を成し遂げる男性に旅立たれて、残された女性が一人、なぜ「安の野」で酒を飲まなくてはならないのであろうか。
確かに、従来の通説のように、安の野は、「和名抄」に記載された筑前国夜須郡六郷の内の中屋郷だと推定され、また「筑前国続風土記」によれば、東小田、四三島、下高場の間に広がる野原の総称だと理解して良い。
その「安の野」で「友」を待ち続ける女性とは、誰だろう。
その正体を知っているのは、大伴旅人だけである。
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